《MUMEI》

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ただ学校にいるので電話に出ることはできない。心の中で相手に謝りながら無視を決め込む。


すると、


憂がいきなり俺のカバンをあさり携帯を掴み取ると、迷うことなくその電話に出た。

「もしもし?申し訳ないけれど今、灰谷君と大事な話をしているの。くだらない電話は止めてもらえるかしら?」

珍しく怒ったように捲し立てる。話のこしを折られたことに腹を立てたらしい。咄嗟のことで俺は彼女を止めることも忘れ、ただただ呆然としていた。先生に見つかったらどうしてくれるんだ。というか他人の電話に勝手に出るなんて一体どういうことだ。

好きなだけ言い終えたあと彼女は首をかしげてから電話を切り、俺に携帯を返してきた。こんなイタズラされてあなたも大変ね、と他人事のように労う。無礼を許してくれ、俺は密かにアイツへ謝った。

「…何か言ってた?」

それを受け取りながら、俺は尋ねた。アイツは今どこにいるのだろう。連絡してきたからおそらく俺の近くにいるのだろうが。

アイツの居場所を想像していると、憂はまた首をひねった。

「何も言われなかったけど?」

「何も?」

そんなはずはない。

「今、どこにいるとか言ってなかったか?」

促してみたが憂は左右に首を振った。

「いいえ、ただの無言電話よ。大変ね。一日に何十件もあんな電話を相手にしていたら、確かに気が狂うわ」

うんざりした顔で憂はそう言った。俺は携帯を確認する。番号は間違いなくアイツのものだった。

憂にはアイツの声が聞こえなかったのだろうか。確かに彼女にはそっちのセンスはない。

そうひとり決めたとき、気づく。



―――じゃああのとき、『彼女』はどうして…?



そこで、あるひとつの可能性を思いついた。


「…そうだったのか」


思わず呟くと、憂が不思議そうに首をかしげた。

どうしたの?と尋ねてきた彼女に、俺は答える。

「ようやく見えてきたよ。確かに俺達は勘違いしていたみたいだ」

そこまで言って俺は工藤君の方へ視線を向けた。彼は在らぬ方を見てほとんど放心状態のようである。

「どういうことなの?」

憂が苛立ったように言った。俺は彼女の顔をもう一度見遣る。

そして口を開いた。


「真相究明まであと一歩だ」


憂はワケがわからないという顔をしていた。



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