《MUMEI》

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業間休みに俺は、ぼんやりしている工藤君に話しかけた。

「具合はどう?」

工藤君は何も答えない代わりに、無理やり笑顔を浮かべる。相当キツい状態らしい。

俺は続けた。

「彼女…レイコさんはどうしてる?」

尋ねると彼は首を振った。

「…元気がないよ、身体の調子も良くないみたいでさ」

蚊の鳴くような声で答えた。そりゃそうだろうな。納得すると、今度は工藤君が尋ねてきた。

「沢井のことで何かわかった?」

俺は頷いた。

「色々調べてみたよ、だいたいわかってきた」

「ホントに?あいつを止められる?」

その質問には答えず、違う問いを投げかけた。

「それより聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

自分の質問を無視されたのが不本意だったようだが、工藤君は、いいよと素直に頷く。

俺は口を開いた。

「レイコさんのことだけど、彼女どこに住んでるの?」

工藤君は眉をひそめた。

「そんなこと聞いてどうするんだよ」

意図が読めない質問にちょっと腹を立てたようだが俺も引くつもりはない。

「大事なことなんだ、答えてよ」

俺が返事を催促すると彼は肩をすくめて、知らないと答える。

「そういう話はお互いにしてないんだ。まだ付き合って間もないしね」

「いつ頃付き合い始めたの?」

「うーん…1ヶ月前くらいかな?」

1ヶ月前。

その言葉を頭にインプットしてから質問を続ける。

「どうやって知り合ったの?」

その質問に工藤君は不思議そうな顔で俺を見つめてきたが、やがて答える。

「…下校中に声をかけられたんだ。昔好きだった人にそっくりだって」

俺は、なるほど、と相槌を打つ。それが常套手段か。

一息おいて、俺は最後の質問をした。

「もしかして彼女と出会った場所って近くにある桜並木のところじゃない?」

工藤君は驚いたようだった。何で知ってるの?と声をあげる。

「そうだよ、あの並木道で知り合ったんだ。そこで彼女はいつも僕が通るのを待ってくれていて、いろんな話をしてるんだよ」

完璧だ。

間違いない。睨んだ通りだった。

工藤君はどうして出会いの場所がわかったのか聞きたがったが、俺は、偶然二人でいるところを見かけたのだと誤魔化した。あながち嘘ではない。

「ありがとう、これで解決できる」

俺がそう言うと、工藤君はパッと表情を明るくした。

「本当に?」

「もちろん」

君は辛い想いをするかもしれないけれど。


その言葉は伏せて、俺はもう一度彼に礼を言い、彼の席から離れてそのまま教室から出る。人目のつかない男子トイレへ向かい、一番奥の個室に入った。

携帯を取り出して、電話をかける。数回呼び出しコールが繰り返されたあと、相手が出た。


向こうが話し始めるより前に、


「頼みたいことがあるんだ…」


俺は静かに口を開いた。



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