《MUMEI》

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―――沢井は工藤君を呪ってなんかいなかった。

真実はその真逆で、彼女は彼を『奇妙な気配』―――つまりは、あの桜並木の女から救おうとしていたのだ。

工藤君が日に日に衰弱していったのは悪霊にとり憑かれていたからであって、沢井はそのことに対しては関与していない。


沢井が工藤君に送り続けていたあの不気味なものは、実は除霊のためのアイテムであり、そのことについては憂が懇意にしている知り合いからの報告メールで明らかになった。


《人形の特徴が悪霊を祓う際に用いられるものと酷似していることから、呪詛のような悪意のあるものとは考えられません》


プリントアウトされた報告メールの2枚目に、そんな一文が添えられていたのだ。説明によればあの人形は除霊アイテムとしてはポピュラーな形態のものらしい。恐らく沢井は個人的に除霊に関して調べて、見よう見まねで御札や人形を作ったのだろう。

『邪魔しないで』

今朝、彼女が言ったあの台詞も呪い云々ではなく、除霊についてのことだと考えれば容易に納得がいく。


全ての事情を知った俺は肩をすくめる。

「風紀委員として苦しんでる工藤君を見過ごせなかった?」

茶化して言うと、彼女は思いきり睨み付けてきた。

「バカにしてるの?」

「いや、無鉄砲だと思っただけ」

ぞんざいに返すと彼女は黙り込んだ。不本意そうな顔をしている。
俺は携帯をポケットの奥へ押し込みながらため息をついた。

「…自分の行動がどれだけ危険なことかわかってる?下手したらかなりヤバイことになってたぞ」

沢井は顔を強張らせた。素人である自覚はあるらしい。



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