《MUMEI》
お宅訪問
 そして放課後、羽田は約束の時間に合わせて学校を出た。
ファイルに書かれてあった住所を頼りに、凜の家を探す。
同じような家が立ち並ぶ集合住宅の一角に、凜の家はあった。

 呼び鈴を押すとピンポーンと、なんとものんびりした電子音が家の中に響いた。

少しして、何の確認もなくいきなりドアが開いた。

「あ、こんにちは」

「どうも」

 顔を覗かせたのは私服姿の凜。
家にいるのだから、当然なのだが、私服の凜は普段とはまた違う雰囲気だった。

「どうぞ」

これといった挨拶もなく、凜は羽田を家の中へ通した。

「お邪魔します」

なんとなく、恐縮しながら羽田は玄関へ入る。

「……きれいにしてるのね」

 玄関で靴を脱ぎ、凜が出してくれたスリッパを引っ掛けながら、羽田は言った。
というのも、凜の家の玄関には、物がまるでなかったのだ。

 普通、玄関には靴やサンダル、下駄箱の上にも何かしら置いてありそうなものだが、この玄関には必要最低限のものしか置いていなかった。
つまり、いつも凜が履いている靴と、来客用のスリッパのみ。

生活感がまるでない。

「そうですか?」

さして興味もないように応えると、凜は羽田を二階へと連れて行った。

「お部屋もきれいね。……というか、何もないわね」

凜の部屋に入るなり、羽田は言った。

「そうですか?ベッドとテーブル、タンスはありますけど。あとクッションが一つ」

「普通、中学生の部屋にはもっとこう、漫画とかCDとかあると思うんだけど」

「へえ。そうなんですか」

まったく会話に興味を示さない凜は、適当に返事をしながら羽田にクッションを差し出し、自分はベッドに座った。

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