《MUMEI》

「お風呂入ってるよ。眠いならさっさと入ってくれば?」

片付けを終えた恋人が言う。

風呂。風呂ね。

彼女との生活に不満は小指の先ほどもない。
ただ、ひとつだけ勘弁してほしいことがある。

ほらほら、さっさと入ってよ。かわいくて愛しい恋人がぼんやりしている俺の頭を容赦なくはたくので、俺も仕方なく立ち上がる。狭い廊下をぬけて、これまた狭い脱衣場に行く。服を脱ぐ。冷たい空気が肌を撫でて鳥肌がたった。

あー。

風呂。風呂ね。

恋人が入れた風呂。

今日も、嫌な予感がする。
むしろ予兆がする。

そろそろと金属質の扉をあける。
あ。
あぁ。

やっぱりね。

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