《MUMEI》

「愛香〜!おっそいよ〜!」


個室のドアを開けた瞬間、いきなりマイクで叫びやがった亜希。

まじさ、マイクで叫ばなくても聞こえるから!

ただでさえ、蝉のあの鳴き声で頭痛いのにさ。


「梨華子、亜希をどうにかして」

「さあさあ、愛香も歌う?」

「…私はパス。てか梨華子、見事に私の言葉無視したね」


仕方ないか。梨華子にとってカラオケは生きがいだから、うん。

この人、カラオケ大好きだから、うん。

普段あんなクールなのに、カラオケだと何だか生き生きして見えるのは気のせい?

亜希のあのテンションも、カラオケだと梨華子は全く気にならないみたい。

私はカラオケ普通だからな。

基本歌わない人だからね。

だから、私の歌声は貴重らしいね。

何か亜希が結構前に言ってた。


「てかさあ、愛香どうなのよ」

「は?何が?」

「え?一つしかないじゃん!矢崎くんと!」


…ん?今、亜希は矢崎くんと言った?

私は聞き間違いだと思いたくて、ニコッと笑い、スルーした。


「…うっわ。図星」

「図星って何がよ、梨華子」


この時、久しぶりに梨華子を睨んだ気がする。

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