《MUMEI》
CASE-2 写り込む女
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「面白い噂を聞いたの」


放課後、怪奇倶楽部の部室で憂がそう言った。

来週に迫った期末テストに向けて、部室にあるパイプ椅子に腰かけながら数学の参考書を読んでいた俺は、ふぅんと生返事をする。彼女が面白いという話は大抵くだらないし、大体は予想できる。真面目に取り合って割に合ったことはない。

彼女は俺のやる気のない態度を気にする様子もなく話を続けた。

「知り合いの妹の友達の彼氏の友達の姉が怪談サイトで読んだ都市伝説らしいのだけど、すごく興味深いのよ」

言ってる意味が一瞬わからなかった。つーかなんだそのやたら複雑な経緯は。
その前置きだけでもツッコミどころが満載で、はたしてどこからどう切り込んでいいのかわからない。

そんなことを考えていたおかげで数式が頭に入らなくなった。迷惑極まりないことである。

憂はどうしてもその話を俺にしたいようで、口を閉ざす気配はない。

「ワイドショーの街頭インタビュー映像や防犯カメラに写り込む不気味な女がいるらしいの。とくに何をされるというワケではないのだけど、それを目撃した人は必ず自殺してしまうのですって」

彼女はさらにその女がショートヘアであり、赤いワンピースを着ていて、両方の眼窩が空洞であるという何とも気味の悪い特徴を述べた上で、

「どう思う?」

いきなり俺に意見を求めてきた。

俺は参考書から顔をあげて、どうって…と少し考え、それから口を開く。

「目玉がないと不便だろうね」

思いついたまま答えると憂はあからさまに不満そうな顔をした。

「もう少し真面目に答えてくれる?」

「至って真面目で素朴な意見だと思うけど」

参考書に視線を戻しながらぞんざいに言った。そんなくだらない都市伝説よりも今はとにかく勉強の方が大切だ。
憂は俺の態度にあきれ返ったのか深いため息をあえて聞こえるようについたあと、あなたの意見はもういいわ、とさっさと会話を切り上げ、

そして、


「『怪奇倶楽部』として《写り込む女》のナゾを一緒に検証しましょう」


かなり唐突に、高らかな声で宣言した。

俺はまた顔をあげる。

「…何をまたそんないきなり」

いつもの思いつきか。勘弁してくれ。



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