《MUMEI》
独自調査
.


―――帰宅後。


家族揃っての夕食を終えて、俺は一足早く自分の部屋に入った。もちろんテスト勉強のためである。

参考書を片手に机に向かって問題を解いていると、部屋のドアがノックされ開かれた。
椅子に座ったまま振り返って確認すると、ドアから顔を覗かせたのは父親だった。心なしか頬が痩けているような気がする。

「何?」

今勉強中なんだけど、と素っ気なく言うと父親は申し訳なさそうな顔をした。

「…忙しいところ悪いが、ちょっとマッサージしてくれないか?」

そう言って俺の返事を待たずに部屋に入り込む。肩が重くてしかたないんだよ…とぼやく父親の背中には青白い顔のレイコがしっかりしがみついていた。とり憑かれていることにまだ気がついていないようだ。本当に父親は名うての除霊師なのだろうかと疑問に思う。

しかしながらとり憑かれてしまったことにほんの少し責任を感じて、俺は父親の頼みを引き受けた。父親は嬉しそうに笑ってこちらへ背中を向けて床に座り込む。父親に背負われているレイコの背中ももれなく俺に向けられた。マッサージするには非常に厄介な絵面である。

取り合えず俺は除霊に効き目があるらしい沢井お手製の御札をポケットから取りだし、レイコの背中にピタッと貼り付けた。途端にレイコは物凄い悲鳴をあげて父親の背中から飛び退き、瞬く間に部屋の隅っこに避難してもがき苦しんだ。

一時的にレイコから解放された父親は不思議そうな顔をして、背後にいる俺の顔を見上げた。

「なんだか急に身体が楽になったような…」

当然である。

戸惑い気味の父親をよそに、俺はクローゼットに押し込んだままのビニール袋を引っ張り出した。先日、同じクラスの工藤君から預かった除霊グッズである。何だかんだ処分するのを忘れていて放置したままだった。

袋を父親に差し出して、これを家中に貼り付けるように言うと、父親は不服そうな顔をして口を開く。

「こんな気味の悪いものを貼ったら母さんに怒られるよ」

嫌がっていたが、俺が再度すすめると父親は渋々承諾し、袋を受け取った。
袋をあさって気味悪がっている父親から視線を巡らせてレイコを見遣ると、彼女は苦しそうな顔をしながら床を這って父親の方へ近寄ってくる最中だった。相当父親のことがお気に入りのようである。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫