《MUMEI》

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レイコの執念に呆れていると、父親が、そういえば、と俺に声をかけた。

「最近学校はどうだ?」

楽しくやってるか?と尋ねてくる。こうしたやり取りは珍しくはない。父親は暇なときよく俺に近況を尋ねてくる。

俺は肩をすくめて、まあまあかな、と適当に返した。

「無理やり同好会に入れられて、面倒くさいこと以外は至って順調だよ」

憂への非難をざっくり揶揄したものの、彼女を知らない父親がそれを察することはない。

父親は、同好会?と少し驚いたような顔をして繰り返す。

「お前がクラブに入るなんて珍しいな」

「不本意だけどね。正直マジで辞めたいけど事情があってちょっと難しいんだ」

同好会を脱会するには憂の承認が必要でしかも彼女には俺を手離す気がさらさらない。

憂の傍若無人な振る舞いを思いおこしながら、彼女が話していた《写り込む女》の都市伝説を思い出した。

「《写り込む女》の噂って知ってる?」

前置きもなく尋ねると父親は面食らったようだったが、首をひねって考え込んだ。

「聞いたことないな…一体何なんだ?」

返されたので、俺は憂から聞いた話をそのまま父親に伝えた。すると父親は、なんだ、とつまらなそうな顔をする。

「何かと思えばただの都市伝説か。んなもんデマだ、デマ。どっかの目立ちたがりのオバチャンがカメラに写るようにしゃしゃり出ただけだろ」

斟酌なくばっさり切り捨てる父親の言葉は不思議なほど清々しい。

俺も、だよね、と頷いてその話はそこで切り上げた。一応は《写り込む女》について調査をしたことにして、憂には適当に報告すればいい。少し肩の荷が降りる。


父親はそのあとマッサージをするようにせがんできたが、渡した袋の中身を持っていればマッサージはもう必要がないことを伝えて、父親を部屋からさっさと追い出した。そのあとを恐る恐るレイコが続いて出ていく。ドアが閉められた。一件落着だ。

俺は安心して部屋の隅に近寄り、そこ落ちていた御札を拾いあげた。最初レイコに貼り付けたものである。暴れまわった際落ちたのだろう。

それを再びポケットへ突っ込み、机に向かって勉強を再開した。


ちょうど参考書を開いたとき、さっそく父親が除霊グッズを使用したのか、レイコの甲高い悲鳴が聞こえてきた。



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