《MUMEI》 二味の無い食事、無機質な絵画、フイリプの神経を蝕むのは、あの薄汚い見世物小屋の魚だ。 どんな美しい細工の懲らした工芸品も、それには劣るばかりだった。 毎日毎晩、フイリプはあの金魚鉢の中を、泳ぎ回る姿を、小首を傾げながら水草に絡む姿を空想していた。 フイリプの細君は食慾も無く睡眠も取らずに、部屋に閉じ篭るばかりの夫を神経症でないかと疑った。 眼窩は落ち窪み、頬は痩衰え、すっかり面変わりをした友を心配し、連れられた食堂の匂いに酔って倒れるも、ひらひらと浮遊する暖簾を仰ぎ見ながら、フイリプは一つの構想を固めていた。 前へ |次へ |
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