《MUMEI》

味の無い食事、無機質な絵画、フイリプの神経を蝕むのは、あの薄汚い見世物小屋の魚だ。
どんな美しい細工の懲らした工芸品も、それには劣るばかりだった。

毎日毎晩、フイリプはあの金魚鉢の中を、泳ぎ回る姿を、小首を傾げながら水草に絡む姿を空想していた。
フイリプの細君は食慾も無く睡眠も取らずに、部屋に閉じ篭るばかりの夫を神経症でないかと疑った。

眼窩は落ち窪み、頬は痩衰え、すっかり面変わりをした友を心配し、連れられた食堂の匂いに酔って倒れるも、ひらひらと浮遊する暖簾を仰ぎ見ながら、フイリプは一つの構想を固めていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫