《MUMEI》
賭け
「……兄ちゃんたちと別れた後、僕たちは下水道を通って、境界近くの住宅街に出たんだ」
「あんなところに……」
ユキナが言った。
 そういえば、ユウゴたち二人も一日目に境界近くの住宅街へ行ったのだ。
そこで地獄のような死体の山を見て、由井たちの戦いを目撃した。

「兄ちゃんたちも行ったの?」
サトシがユウゴを見た。
「ああ。初日にな。あの時は、地獄絵図みたいだったけど……どんな感じだった?」
「うん。死体が山作ってた」
「ああ、やっぱり……」
ユウゴは苦笑した。
「すごかったろ?警備隊の奴ら見境なくて」
しかし、サトシは不思議そうに首を傾げた。
「あれって警備隊が?」
「え、だって、手当たり次第に撃ってたろ?なあ?」
ユウゴはユキナに同意を求める。
ユキナは大きく頷いた。
「……僕たちが行った時は、警備隊は特に攻撃はしてこなかった。…ただ」
「ただ?」
「中の一人が話し掛けて来たんだ」
「え、警備隊が?」
ユキナは目を丸くしている。
そんなユキナに頷いて応えながら、サトシは続けた。

「僕らも驚いた。それで、そいつが言ったんだ。賭けをしないかって」
「賭け?」
「そう。ここから決められた地点まで走り切ることができれば、プロジェクトが終わるまで保護してやるって……」
「……マジ?まさか、それ信じたのか?」
サトシは大きく首を振った。
「まさか。僕はもちろん信じなかったよ。でも、みんなは……」
「え、…信じちゃったの?」
サトシは深く息を吐いて頷いた。

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