《MUMEI》

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報告を聞いて、憂は不満そうな抑揚で言った。

「デマ、ですって?」

詰問するような鋭い声だった。そこでようやく俺は顔をあげて彼女の顔を見た。やはり不機嫌そうに眉をしかめている。

「その人、本当に詳しいの?わたしにはそうは思えないけれど」

一応、プロの除霊師である父親だ。

「何で?」

「わたしが思うにその人はたいして怪奇現象に詳しいワケではないわね。大体あの噂がデマだなんてとんでもないペテンだわ」

彼女は吐き捨てるようにそう言う。
確かに父親は息子の俺から見ても明らかペテンだと思うが、他人にそう言われると若干居心地が悪い。

てか、コイツ親父のファンじゃなかったっけ?今このタイミングで詳しい人の正体を明かしたら、コイツはどんな顔するだろう。多少興味があったが後々のフォローが面倒なので結局流すことにした。

憂はひと通り俺が聞き込みした『詳しい人』の批判をしたあと、改めた声で言った。

「―――では気を取り直して、今度はわたしが報告するわね」

言いながら彼女が取り出したのは…携帯だった。忙しなくキーを操作しつつ、彼女は言葉を紡ぐ。

「これを見れば《写り込む女》の存在を信じずにはいられなくなる」

言い終えると同時に、彼女は携帯を俺に差し出す。受け取らないわけにいかないので、仕方なくその携帯を彼女の手から抜き取り、ディスプレイ画面を眺めてみる。そこにはどうやら動画ファイルが表示されているようだった。


『**県**市 **ビル』


ファイル名にはそう記載されており、しかもその地名は俺達の地元で、そのビルの名前も実在する建物だった。

怪訝に思い、俺は憂を見る。彼女は涼やかな顔で頷いた。

「昨日、サイトを検索していたらこのページに行き着いたの。投稿者はこのビルで働いていた警備員の妹で、ムービーはビル内の防犯カメラ映像らしいわ」

淡々と説明してから、動画の再生ボタンを押すように促された。何だか嫌な予感がしたが、言われるままにキーを押す。



―――同時にゆっくりと、映像が流れ始めた。



その映像は建物の中の廊下を写していた。上から廊下全体を広く捉えているカメラのアングルから察するに、やはり憂が言ったように防犯カメラの映像のようだ。たぶん天井の隅に設置されているのだろう。首振り式ではないようで、映像は一定のポイントだけを写し出している。

やたら画像が荒いのは携帯でダウンロードしたからか、それとも防犯カメラのクオリティが低いのか。見えにくいことこの上ない。

廊下が薄暗いのは、照明が消されているせいらしい。おそらく深夜の時間帯なのだろう。そこを通りがかる人影はなかった。ただ無人の廊下の映像が流れているだけである。



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