《MUMEI》

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―――《写り込む女》。


いつも赤いワンピースを着ていること。華奢な身体つきで髪型はショートカットであること。眼窩が空洞であること。テレビや防犯カメラの映像に不意に写り込み、その姿を目の当たりにした人間にはもれなく死が贈られること。

そして、それを回避する方法は未だ不明であること。


現在握っている情報はごく僅かでしかも最後の項目に関してはかなり心許ない。


つーか、

「…冗談じゃねーし」


帰る途中、頭の中だけで呟いていたつもりが、つい口から出てしまった。


俺の呟きを隣で聞いていた憂は、何が?と至って呑気な口調で聞き返す。その緊張感が一切感じられない抑揚がまた鼻につく。

俺は聞こえよがしにため息をついた。

「どっかの誰かさんが怪しげなサイトで見つけたトンデモ映像を前置きなく見せやがるからさ」

《写り込む女》の動画を見せた憂のことをざっくり指摘したのだが、彼女は俺の批判を全く意に介さないようでサラリと答える。

「どっかの誰かさんがあの噂をデマとか言い出すからちょっとお灸を据えたつもりだったのよ」

どこがちょっとだ!

思わず突っ込みそうになる。『お灸を据える』程度で死んだら、それこそ浮かばれない。俺が。

「だいたい何であんなモン見せるんだよ」

「だってわたし一人ではどうにもならないでしょう?」

そっちのセンスがないということを言いたいようだ。

「だからって俺を巻き込むな」

「二人の方が何かと効率的だと思って」

彼女に悪びれた様子はない。全くとんだとばっちりである。


と、そんなことで反目し合っても何も変わらない。俺と憂が《写り込む女》を見てしまったという事実は。


とにかく―――。


俺は憂の顔を見据えた。

「こんな都市伝説に殺されるなんて俺はごめんだ。《人生80年》って言われてる時代に、この若さで終わりを断じて迎えたくない」

そう言うと憂は、そうね、と頷く。

「わたしも《写り込む女》以外に、まだまだ解明していない都市伝説をたくさん抱えているから当分死ねないわ」

そういう問題か?

ちょっと疑問に思ったが面倒なので無視をした。

憂は瞬きをひとつして、思い出したように告げる。

「目撃者は女の姿を見てから1週間後に亡くなっているわ」

つまり、猶予は1週間だ。


ということは、

「…期末テスト直前?」

俺はダブルで衝撃を受ける。テスト勉強をしながら都市伝説調査なんて、現実は思いの外シュールだ。
なんてこった、スケジュールがあまりにタイトすぎる。

「どうにかならんのか…」

うんざりして呟くと憂が、無理でしょうね、と飄々と答えた。



冗談じゃない。

いや、死ぬのもそうだが大事なテストをしくじるのも。



―――期末テスト前に《写り込む女》の謎を何が何でも究明しなければ。


俺は決意し、そして深いため息をひとつついた。



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