《MUMEI》
カウントダウン
.


まどろむ意識の中で、覚えのある機械音が聞こえてきた。携帯の着信音である。俺は閉じていたまぶたを開いた。

寝っ転がったまま枕元の携帯を手探りで引き寄せ、ディスプレイを見る。今となっては見慣れた番号からだ。俺は通話ボタンを押して耳にあてる。

「わたし、メリーさ…」

相手が話している途中だったが、俺は即座に電話を切った。7時45分ぴったりだった。いつもの通りである。俺は黙り込んだ携帯を投げ出して大きなあくびをした。

柔らかい朝の日差しが部屋の窓から注ぎ込んでいる。外からは小鳥の囀りが聞こえ、生まれたての新しい一日を讚美しているような清々しい情景なはずなのに、身体がだるい。確かに寝不足ではあるが、問題はそれだけでない気がする。

ベッドの上で何度か瞬き上半身を起こしてから、ゆっくり周りを見回す。何の代わり映えもない、いつもの自分の部屋である。なのに違和感がするのはなぜなのか。


もしかして…。


試しに腰のあたりにかかっているタオルケットをむしってみる。そして、やっぱり…とうんざりした。

タオルケットと俺の身体の隙間に、青白い顔をしたレイコが寝そべっていた。俺の腰にしっかり抱きつき、こちらをじっと凝視したままで口元だけを歪めて笑った。その態度がちょっとムカつく。てか、何で俺の部屋にいるんだ。お前のお気に入りは親父だろが。

俺はしがみつくレイコを引きずったままベッドを抜け出すと机に歩み寄り、引き出しから御札を取り出した。それを見たレイコは悲鳴をあげて俺から離れる。学習能力がないのかお前は。

部屋の隅へ避難してガタブル震えているレイコをしり目に、俺は他に変わったことはないかを確認する。取り立てて異質なものは感じられず、一応は安心することにした。

《写り込む女》の魔の手はまだ俺のもとへたどり着いていないらしい。

しかしそれも時間の問題だ。

俺は壁にかかったカレンダーを見遣る。期末テストは今日を含めて6日後。



―――すなわち、タイムリミットまであと6日。



助かるための手掛かりは何もない。


どうなることやら。


ため息をついたとき、レイコが何やら騒いでいることに気がついた。どうやら俺のことを口汚く罵っているらしい。うるさいので御札を投げつけてやったら、レイコは血相を変えドアをすり抜けて部屋から出ていった。ざまあみろ。


ようやく静かになった部屋の中で俺は大きなあくびをした。ちょうどそのとき、8時を知らせる携帯のアラームが鳴り響いた。



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