《MUMEI》

教室に入ると、まだ5、6人しかいなくて。

その中に健太はいなかった。


「…何それ…」

「…愛香、夏休み中に矢崎くんと何かあった?」

「別に。知らないあんな奴」


何なの、あいつ。

花火大会までの健太とはまるで正反対。

あの日のこと気にしてるわけ?

まだ"悪かったな"とか思ってるわけ?


いいよ、別に…。

そんな分かりやすく距離とられたら、私可笑しくなっちゃうよ。

"馬鹿みたいに好き"

それは嘘なわけ?


私だって…私だって健太のこと、馬鹿みたいに…好きなのに。


…やっぱり、素直に言えばよかったんだ。

"好き"って。

ちゃんと伝えればよかった。


「…私、亜希みたいになりたい」

「へ!?いきなり何、愛香!照れるじゃん!」

「どうしたら素直になれるの?」

「…え?愛香…?」


"素直になる"って、難しすぎるよ。

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