《MUMEI》

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通学途中で出会ういつものきちがいババアを自転車でぶっちぎって今日も無事に登校する。つーか、いい加減俺を狙うのは諦めてくれ、ムダだから。心の中でぼやきながら、教室へ向かった。

仲の良いクラスメイト達と適当に挨拶を交わしたあと自分の席に座り、鞄からテキストを取り出していると背後に誰かが立つ気配がしたので振り返った。案の定、それは憂だった。

「何かおもしろいこと、起こった?」

瞳を輝かせてそう尋ねてくる美しい顔立ちの憂は、やはり魅力的に見えなくもない。話の内容を覗けば、であるが。

俺は肩をすくめた。

「これといって何も。普段通りの朝だったよ」

そう答えると憂はあからさまに失望したような顔をした。わたしもよ、と答える。

「とてつもなくおぞましいことが起こるのではないかと期待していたのだけど、何もなかったわ」

さらにはいつ怪奇現象が起こってもいいようにと、部屋の中でビデオカメラを夜中ずっと回していたらしいが、結局その映像に女は写っていなかったらしい。俺にとっては《写り込む女》云々よりも憂のその執念の方が怖い。

「なかなか相手も手強いわね」

悔しそうに憂が呟く。
君ほどじゃないよ、と言うと後々の報復が恐ろしいので黙っていた。

代わりに、

「《写り込む女》の目撃者は1週間後に自殺してるって言ってたよな?」

尋ねると憂は素直に頷いた。俺は立て続けに質問する。

「自殺の方法は?」

憂は少し考えて首を横に振る。

「それは知らないわ、どうして?」

逆に訊かれて、俺は首をひねった。

「いや、なんとなく…」

《写り込む女》を目撃したことで女に殺される、という話なら何となく想像もできるし、どこにでも有りがちだ。

真相はわからないけれど、噂では女自身が何かしでかすわけではない、らしい。

ただ、その姿が写り込むだけ。


それだけなのに、一体なぜ?

どうして目撃者は自殺してしまったのだろう。それだけの理由があったはずだ。


その状況が見えてくれば、自然と打開策も見つかると思うのだが…。


俺の心情を察したようで憂は、調べておくわ、と言い残し、足音も立てず立ち去った。


そのうち始業チャイムが鳴り、談笑していたクラスメイト達が慌ただしく各々の席に戻っていった。


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