《MUMEI》 . 授業は滞りなく進み、やがて昼休みになった。 俺は仲の良いクラスメイト達と一緒にいち早く購買で買ってきたパンを食べていた。バカ話を繰り広げながら過ごす休憩は、いつもの通り平穏な空気に包まれている。 「あれ、松本じゃね?」 突然、友達のひとりが声をあげて指差した。俺と他のクラスメイトはそちらへ振り返る。 友達が指差したのは、教室の隅に置いてあるテレビだった。主に授業で学習用のビデオを鑑賞するために各教室に設置されている。 普段は電源を消されているが、誰かがつけたのだろう、その画面にはマイクを持った女子生徒が大写しになっていた。その女子生徒が松本である。違うクラスで確か放送部に所属していたはずだ。 放送部は週に一度、昼休みの時間に校内のテレビをジャックしてバラエティ番組のような映像を流す活動をしている。松本はその活動を精力的に行っていることで学校でも有名だった。 『みなさーん、今日も楽しく昼休みを過ごしてますかー!?いっぱい食べて午後の授業も乗り切りましょー!』 画面の中の松本はやたらとウザいテンションで声をあげる。それを見たクラスメイト達は失笑していた。友達の話によれば松本は将来アナウンサーになることを目指しているらしく、言われてみれば彼女の話し方や表情は某テレビ局のアイドルまがいの女子アナとかぶるな、とぼんやり思った。 流れている映像は生中継らしい。 しがない高校の放送部に、果たしてそんな技術があるのかと不思議に思うが、松本が関わっていると思うと妙に納得してしまう。 写し出されているのは廊下で、たくさんの生徒で溢れ返っていた。 画面の隅に、天井からぶら下がる学食の案内プレートが小さく見えることから察するに、どうやら撮影クルーは1階にいるようだ。学食は校舎1階の端にある。 『本日は大人気の企画《突撃!隣の昼ごはん!》です!さっそく学食でみんなが食べているものをリポートしたいと思いまーす!』 松本はマイク片手にごった返す生徒達を押し退けて、慌ただしくパタパタと廊下を移動する。カメラマンも駆け出したのか手振れがひどい。つーか何なんだ、そのどっかで聞いたような企画名は。もうちょっとひねりはないのか。どうにもセンスがいただけない。みんなもそう思っていたようで、画面の松本を見てやっぱり苦笑していた。俺はテレビを見ながら、手に持っていた缶コーヒーを一口啜った。 『やはり物凄い混雑です!ご覧ください!なかなか食堂に入れません!』 松本は殺人的に混み合う学食に入ろうとして苦戦している様子を実況していた。もみくちゃにされて、カメラの画面が大きく揺れる。 . 前へ |次へ |
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