《MUMEI》

「ただいまぁ」
あ、誰か来てる。靴が一足端に揃えてあった。
廊下の真横の階段から妹の麻美が顔を出す。


「乙矢兄来てるよ。二郎兄の部屋にいる。」
あら珍し。
部屋に入ると床に長い足を組んだ乙矢が座っている。


「どうしたの?俺の家に来たりなんかして。」


「どっか、出掛けない。」


「本当に珍しい
何処に行こうか。」
でも内心嬉しかったり。


「すぐ行こう!何処でもいい、まずバスに乗る。」
俺の手をぐいぐい引いて玄関から出た。


「おー、いいところに!今日、大波で雨降り出しそうだから早引きさせてくれてさあ。
焼きとうもろこし大量に貰ったから食べる?」
……七生だ。確かに空が曇って危ない。


「邪魔だ。」
七生を押しのけ更に進もうと乙矢は俺を引っ張る。……焼きとうもろこし!


「待てよー!俺も俺も」
俺の家の玄関に焼きとうもろこしを放り込んで七生が後をついて来た。

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