《MUMEI》

.


しかし諦めることなく松本は俺達に追いすがってくる。

「ちょっと待って!カメラに向かって何か一言お願いしまぁす!!」

松本が俺の肩を思いきり引っ張った。その拍子に俺はカメラのレンズと真っ向から対峙する。松本が差し出すマイクは俺の眼前にある。

いい加減イラついて暴言を吐こうとしたのだが、カメラを見て思わず絶句する。



テレビカメラの、その丸いレンズ越しに、

赤いワンピースを着たショートヘアの女が写り込んでいた。
しかも俺のすぐ後ろで。



女の姿は今までよりもずっと鮮明に見え、空洞である眼窩の縁から頬にかけて涙のように赤黒い筋が何本も流れ、

ポツリ…ポツリ…とあごから滴っているのは、紛れもなく血だ。



「…ぅわあぁぁッ!!」


俺はビビって大声をあげてのけ反った。松本も俺の反応に驚いたらしく、表情を凍らせ一歩退く。憂も弾かれたように俺の顔を見上げた。


彼女達を放って、勢いよく後ろを振り返って見たがそこに赤いワンピースの女の姿はなく、

いつの間にか取り巻いていた、たくさんの生徒達が訝しげな眼差しを投げかけていただけだった。



何だ、

今のは何なんだ!



心臓が破裂しそうなくらい脈打っている。混乱して思考がまとまらない。頭が痛い。耳鳴りがする。俺の全身が警告している。―――これはかなりヤバいことになってんぞ、と。



《写り込む女》は間違いなく俺達を狙ってる。



呆然としている俺に松本が、あのぅ…と恐々声をかけてきた。

「ど、どうしたんですか?顔、真っ青ですけど…」

俺はぼんやり松本を振り返った。しかし何も答えることができずに、ようやく会釈して憂の手を引きその場から離れる。憂は戸惑いながらも抵抗することなくちゃんと着いてきた。周りの生徒も俺の空気を気味悪がったのか、大げさなくらい道をあけてくれる。俺と憂は彼らの視線を受けながら、ゆっくりと学食から抜け出した。


憂とふたりで廊下を歩きながら、考えた。


やはり始まっているのだ。

《写り込む女》の、都市伝説の通りに、



俺達の命を奪う、カウントダウンは始まっているのだ、と。



憂は何も尋ねてこなかった。ただ表情を強ばらせている。彼女が抱えている購買の紙袋が、微かにカサカサ鳴っていてそれが俺の不安をより煽っているような気がした。



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