《MUMEI》

「えっとあの、精々おいしく育てて下さい。あなたの胸の奥で熟成するのを楽しみに、ずっと待っていますから」
 立場が逆転したかのようだ。言い含める物言いの参加者の顔から、思わず目を背ける。
「えっとあの、老婆心ながら。あなたが助かる方法は、全て忘れてしまうことです。今日あった出来事、わたしの事などを忘れてしまえばいいんですよ…」
 そうすれば失敗は育たない。礎にもならない。存在意義は消滅しない。
 ひどく優しい声が、進行役の耳元で囁かれる。意志を無視して、無理矢理に視線を戻した時には、既に残った参加者の姿は消えていた。進行役は何も考えられず、一人残された部屋の中で最後に参加者が呟いた言葉を、只、ひたすらに反芻していた。

「えっとあの、忘れられるものでしたらね」
          
        終

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