《MUMEI》

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学食から教室へ戻ったあとはさんざんだった。


放送部の生中継により、俺と憂が手をつないでいた(正確には俺が彼女の手首をつかんでいたのだが)映像がバッチリ流れてしまい、クラスメイトに俺達の関係を誤解されることになった。

さらに《写り込む女》を目撃したときの俺のリアクションがわざとらしいので(クラスメイト達には女の姿が見えなかったと思われる)、憂との2ショットがバレたため苦し紛れに誤魔化そうとしたとか、そもそも俺達が一緒にいたこと自体が放送部のヤラセだとか、それはもう様々な憶測が飛び交った。

そのせいでクラスメイト達にこの件に関して質問攻めされるハメになったのは余禄である。



―――そして放課後。



夕方のホームルームが終わった途端、クラスメイト達は足早に教室から出ていった。打って変わって静まり返った教室の中に残っているのは俺と憂だけだった。俺達はそれぞれの席に座ったまま、黒板をぼんやり見つめていた。

「学食にあの女がいたんだ…」

俺は黒板を見つめたまま呟いた。聞こえているはずだが憂は何も答えない。俺は続ける。

「放送部のカメラに写り込んでた。教室で生放送を見てたんだよ。この前見た動画と同じ格好だった。アイツは間違いなく俺達を狙ってる」

憂は黙っていた。俺は疲れきってため息をついた。あの女マジでヤバい、つーかシャレになんねーよ…。心の中でそうぼやく。

女がすぐ後ろにいたのに、カメラのレンズに写り込むまで全くその存在に気づかなかったことがショックだった。
嫌な予感はしていたが、まさかあんな近くにいたなんて。こんなことは今までなかった。いつもならヤバい気配にいち早く気づいて上手く回避できたのに、あの女相手ではそれすらも困難であることを思い知る。絶対逃げられない、つい弱気になった。心が折れそうだ。

絶望的な気分で塞ぎ込んでいると、

「調べましょうか…」

不意に憂の声が聞こえてきて、俺はゆっくり視線を巡らせた。彼女は俺の顔をじっと見つめていた。

「目撃者がなぜ自殺したのか、死ぬまでの間どんな様子だったのかを調べましょう…何か手がかりが見つかるかもしれないわ」

もちろん手伝ってくれるわよね…?


唄うような彼女の声が流れ込んでくる。いつもの威圧的なものとは違い、優しく労うような抑揚だったので、俺は素直に頷いた。


ふたりで鞄を手に下げて教室をあとにするとき、


「…わたしは負けないわよ」


低い声で憂が呻いた。
強い決意を秘めた眼差しで。



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