《MUMEI》
孤独な狼少年。
それから、約1ヶ月後…―。
―9月8日。



「椎名君っ!どこー?」

今日は、朝から騒がしかった。
今日は、というかまぁ、ここ最近のことなのだが…。

ここ最近、朝看護師さんたちの声が廊下から聞こえてくるのだ。
どうやら、5日前に入った、私と同い年の男の子が病室から、よく居なくなるらしい。
だから、看護師たちが、探し周っているのだ。

「ヒナちゃん、ごめんね。最近うるさくて…。」

「いえ、でも…大変ですね。探すの。」

すると、歌音さんが、苦笑する声がした。

「はは、……椎名君ねぇ、昔からなの。」

「え?」

突然、歌音さんの声のトーンが変わった。

「椎名君…、3歳の頃から、退院や入院を繰り返してて……。」

「3歳の頃から?……病気重いんですか?」

「……え?あぁ、あはは!ううん、もうすぐ治るわ。」

その時の、歌音さんの声はおかしかった。
明らかに、嘘をついているようだった。
でも、私は関係ないからと流してしまった。



「じゃあ、私戻るわね。」

「は、はい。」


歌音さんが、出ていって数十秒後に、再びドアが開く音がした。

――ガラガラッ


……――???

誰だろう?歌音さん…?


私は誰かが、病室に入ってきた気配を感じた。
そして、その誰かが私の横に立った。


「…――シィ―…。黙ってろよ。看護婦なんかに、バレたらめんどいからな。」

その言葉と少し幼い声を聞いて、私は相手が誰だか、だいたい、わかった。

「あなた、椎名君…でしょ?」

「……あぁ。お前、目ぇ見えないんだろ?」

「うん、」

「名前は…?俺は、美空…椎名。」

「みそら…しいな?キレイな名前…。私は、前田ひなみ。」

「ひなみか、変わってる名前だな。」

「椎名君の方が、変わってるよ、」

「そっか…。」



これが、私と椎名君の出会いだった。


その日から、椎名君は私の病室によく、来るようになった。

「じゃあ…椎名君のお父さん、お医者さんなの?」

「あぁ、一応な。でも、俺は後継ぐ気ない。」

「なんで?…継げばいいのに。」

そう、私が言うと椎名君は首を横にふった。

「やだよ。俺、そーゆう決められたことって嫌いなんだ。だって、俺の人生なんだぜ。自分のやりたいことやって、生きてかなきゃ、楽しくない。」

「……そっか、そう…だよね。椎名君は、すごいね。
なんとゆうか、強い。」

「……そうか?」

そう…言った椎名君の声は、震えていた。

――ドクンッ。

椎名…君???
もしかしたら、“強いね”なんて言葉を安易にかけちゃ、いけなかったのかもしれない。
だって、それは外からみただけのもの。
本当に、強いかなんてわかりゃしないのに…。
一見強く見えても、本当は弱いところをたくさん持っている、ひとがいることを、私はまだ、知らなかった……。






―りぃくんの、物語は順調に進んでいた。

「りぃくん、始めから読んで♪」

「はいはい、じゃぁよーく、聞いてろよ?」

「うん、」

「では、……小さな花。…――」



〜小さな花。〜

プロローグ†

小さな花は、いつも一生懸命に花を咲かせていました。
いつか、大きな花になれると信じて。
そんな小さな花を誉めてくれる人は、いませんでした。
それでも、小さな花は花を一生懸命咲かせ続けました。
いつまでも、いつまでも、咲かせ続けました。

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