《MUMEI》 「どうぞ。歩さん」 差し出されたソレに、戸惑いがちに触れてみれば 何とも不可思議な感覚を桜井は体験する事に 「……触れてる。すごい、不思議な感じ……」 「間近で見る虹は、格別に綺麗ですね」 「そ、だね……」 「歩さん、手を出してみて貰えませんか?」 「手?どして?」 「いいから」 若干強引に桜井の手を取ると 開かせたその手の平に、雨月は何かを乗せてきた 「何、これ?ビー玉?」 「いえ。雨粒を結晶にして、その中に虹の色を閉じ込めてみたんです」 いかがですか、と出来を尋ねてくる雨月へ 桜井は改めて、渡されたソレを覗き込んでみる 「すごく、綺麗……」 丸い球体の中に映る虹 見る角度を変える度、様々な色を見せる 「気に行って、戴けましたか?」 綺麗なソレを戴き、桜井は上機嫌で頷いて返す 我ながら現金なものだと自身を笑ったが、そこはもう開き直る事にし 今は、戴いたモノを素直に喜ぶ事に 「……そろそろ、帰ろっか」 「そう、ですね。少し、残念ではありますが」 心底残念そうに、雨月は肩をすくめて見せる その仕草は何故か外見にそぐわず幼く見え 桜井は僅かに肩を揺らしながら 雨月と並び、家路へと着いたのだった…… 前へ |次へ |
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