《MUMEI》 . 『寺田屋事件』は慶応2年…西暦だと1866年ね。テストに出すぞって先生言ってたよな。 伏見奉行による坂本龍馬襲撃…あの有名な龍馬暗殺事件か。 龍馬暗殺といえば確かこの前、都市伝説のテレビ番組で、実はフリーメイソンが絡んでるとか何とか言ってんの見たな。嘘くさいけど、あれってマジなのか? 「…間違いないわ!」 俺が龍馬暗殺の真相に思いを馳せている最中に、隣で憂が呟いたのでビビる。恐る恐る彼女を見ると、彼女も俺を見つめていた。 「マジでフリーメイソンの陰謀?」 俺の怯えた問いかけに憂は怪訝そうな顔をした。 「フリーメイソンがどうかしたの?」 「いや、龍馬がフリーメイソンに殺られたって…」 「リョーマ?誰よ、それ」 会話が全く噛み合わず憂はいら立ったようだったが、目の前のパソコンを指差して続ける。 「これを見て」 俺は隣からパソコン画面を覗いた。そこには新聞の記事が大写しにされている。 《**ビル勤務の警備員、変死。自殺か》 そんな見出しが視界に飛び込んできた。どうやら探していた警備員の記事が見つかったらしい。何だ、フリーメイソンじゃないのか。少しガッカリする。いや、ガッカリしている場合ではない。 「時期もぴったり当てはまるし、この記事に違いないわ…」 パソコンのマウスで画面をスクロールしながら憂が言う。俺も文章を目で追った。 記事によると、警備員(仮にAと呼ぶ)の死体が発見されたのは深夜未明で、第一発見者及び通報者は近所に住むサラリーマン。深夜残業後の帰宅途中、例のビルの前を通りすぎるとき何かが落下したような不審な物音が聞こえて確認すると、血を流したAが地面に横たわっていたと証言した。 司法解剖では死因は全身を強く打ったことによるもので、即死だったらしい。死亡推定時刻はサラリーマンに発見された時刻とほぼ同じ。 現場検証の結果と発見者であるサラリーマンの証言、そして事件当日はAがビルの警備を担当していたことから、警察はAが勤務中、発作的にビルから飛び降り自殺を図ったものと断定。 Aの同僚の話では、最近その警備員は思い悩んでいた様子で元気もなく、始終何かに怯えていたという。こうなる前に相談にのってあげれば良かったと、涙ながらに語った………。 「飛び降り自殺…」 読み終えて俺は呟いた。憂は頷き返したあと、 「…その警備員の妹の記事がコレね」 囁くように言ってマウスを滑らし、画面を軽やかにクリックする。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |