《MUMEI》 . 現れたのは警備員が自殺した日から3日後に起こった別の記事だ。 《**女子大生、ホームから飛び込み、自殺》 そんな見出しが掲げてあった。 詳細は以下の通りである。 女子大生は帰宅途中、いつも利用している駅のホームで電車を待っていたところ、突然奇声を発して線路に飛び込んだ。運悪くそこへその駅を通過するはずだった特急列車に轢かれて死亡。 夕方、帰宅ラッシュ時の惨事だったことから、彼女の自殺を目撃した者は大勢おり、一瞬にしてホームはパニックに陥った。 目撃者の話によれば、彼女は突然大声で喚き始め、何かから逃れるようにホームから飛び降りたらしい。その様子は明らかに異常であり、彼女は誰かに向かって『来ないで!』と叫んでいたようだったが、ホームには彼女を狙っているような不審者はいなかったそうだ。 女子大生は事件の3日前、**ビルで警備員として勤めていた兄が自殺したばかりで、そのせいかずっと塞ぎ込んでいたという。怯えた目で『次はわたしの番…』と思い詰めたように呟いていたと、彼女の友人は語る…。 「…警察は妹の件も自殺と断定したようね。目撃者もたくさんいたみたいだし、疑いようがないわ」 そこまで言って、憂はため息をついた。疲れたような吐息だった。 憂の呟きはスルーして、俺はパソコン画面を見つめたまま考えをまとめる。 警備員は例のビルから飛び降りて自殺。 その妹はホームから自ら身を投げて轢死。 共通しているのは、 二人とも『何か』に怯えていたということ。 とくに引っ掛かるのは妹の記事だ。 帰宅途中、突然誰かに向かって『来ないで!』と喚きながら、逃げるようにホームから飛び降りた。 そこに不審者はいなかったにも関わらずに、だ。 それに、兄である警備員の自殺後、友人に語った台詞。 『次はわたしの番』 間違いなく妹は察していた。 次に自分が死ぬということを。 彼女は最期の瞬間、夕方のホームで『何』を見たのだろう。 ―――思い当たるのは、ひとつだけだ。 「…ろくなことしねぇな」 俺はひとりで小さく毒づいた。憂は何も言わない。パソコンの画面を見つめたまま、表情ひとつ変わらない。けれど、彼女ももう気づいているのだろう。 《写り込む女》がこの二人を殺したのだと。 ****** 前へ |次へ |
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