《MUMEI》

ピンポーン

午後8時。高らかに、龍彦のマンションのインターホンが鳴った。

「ほいほーい。」

玄関に向かってぱたぱたと歩きながら、龍彦は缶ビールのプルタブを開ける。

「やほ。って、もう飲んでんの?」

迎え入れられた敬一は、整った眉をひそめた。
彼、大山敬一も、龍彦や貴明同様売れっ子の俳優だ。主な活躍の場はドラマで、主役よりも脇を固める実力派としていくつものドラマを掛け持ちしている。
活動するメディアこそ違うが、3人は役者仲間として、また同年代の友人としてたびたび家で飲み会を開く仲だった。

「貴明は?まだ?」
「ん。つまみは?」
「そこのコンビニで買ってきた。サキイカだろ、チータラだろ。」

ビニール袋から次々とつまみを出す敬一に、龍彦はゆっくりとビールを傾けた。どこかぎこちない敬一の笑顔は、彼が何かに思い悩んでいることを示している。

ピンポーン

「あ、俺が出る出る。」

バタバタと玄関に走って行く後ろ姿を見送って、龍彦はそっと肩をすくめた。

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