《MUMEI》
空白の時間3
この日も彩矢は眠っていた。
いつ寝たかなんて、わからない。気付いたら眠っていたんだから。

ただ、いつもと違ったのは部屋の外から聞こえた声が、母ではなかったこと。

「彩矢ちゃ〜ん?起きてるかなぁ?」

母以外の声に、彩矢はハッとして起きた。
だが、寝ぼけた頭で理解できるわけもなく、彩矢はベッドの上に座って、扉をじっと見つめた。

「まだ寝てるのかなぁ?」

扉の向こうで、陽気な女の声がする。
「誰?早く帰って」彩矢は、頭の中で願った。
心臓の音が、どんどん速くなる。

「入ってもいいかなぁ?」

そう聞こえ、扉を押さえに行こうとした瞬間、

「入るねぇ?」

という言葉と同時に、クリーム色のスーツを着た三十代半ばの女が、入ってきた。

「ふふっ、怖がらなくていいのよ?」

怯える彩矢を見て、女が笑う。

「ここ、いいかしら?」

そう言うと、女は机の椅子を彩矢の傍に移動させ、腰掛けた。

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