《MUMEI》
新境地2
車に揺られ、どのくらいの時間が経っただろう。
「家族」だの「助け合い」だのの話をしてから、英里も霧島も黙ったままだったので、彩矢はつい、眠ってしまっていた。

「彩矢ちゃ〜ん?また寝てたでしょ〜?」

英里のいたずらっぽい声と共に、眩しい光が射し込んできた。
光に目を慣らしていくと、真っ白な三階建ての大きな建物が目に入った。

「素敵でしょ〜?今日からここが彩矢ちゃんのお家だよ〜」

建物の周りには木が生い茂っていて、どこかの山奥だということはわかったが、道中ずっとアイマスクを装着させられていた彩矢には、地名など全く見当もつかなかった。

「じゃあ、これから彩矢ちゃんのお部屋に案内するね」

英里の後をついて建物の中に入ると外観同様、真っ白な空間が広がっていた。

建物の二階の奥の部屋へ案内された。
今日から、ここが彩矢ちゃんの部屋だから好きに過ごして、と言うと英里は、部屋から出て行ってしまった。

ひとり残された彩矢は、部屋を見渡した。
真っ白な空間に、小さな窓がひとつと、ベッドがひとつ置いてあるだけの部屋。
慣れない場所で何をしたらいいかわからず、ベッドに腰掛けた。

と同時に、部屋の扉が開き、霧島が入ってきて彩矢の目の前で、立ち止まった。

戸惑う彩矢を、霧島が蔑むように見下ろす。

その視線に堪えきれず俯くと、霧島に顔を掴まれ上げさせられた。

「挨拶は」

声を出せず、哀願するような目で見つめる彩矢に霧島が、もう一度言う。

「挨拶」

それでも彩矢は黙ったままだ。

「よろしくお願いします、だろ?」

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