《MUMEI》

カバンを両腕に抱えながら走っていると、足がもつれた。

「えっ!?」

階段は残り5段、落ちれば保健室行きになるのは眼に見えるようだった。

しかし両手が塞がっていた為、諦めて眼を閉じ、身を固くした。

 どさっ

…けれど、わたしは受け止められた。

「…えっ?」

恐る恐る眼を開け、顔を上げた。

すると、彼が、いた。

「えっ、あっ、ごっゴメンなさい!」

慌てて彼から離れようとしても、体が震えていまく動けない。

「あの、嫌なら床に突き飛ばしていいから!」

本当は良くないが、廊下に到着した後なら、階段を落ちる衝撃よりも軽いと瞬時に思った。

けれど彼はじっと、わたしを見ている。

「えっと…あの…」

声をかけても、真っ直ぐに見られるだけ。

…恥ずかしいのと、居心地が悪いのが、心の中で渦を巻く。

「…何で平気なんだろう?」

ふと彼はポツッと呟いた。

「なっ何が?」

「何でキミに触って、僕は平気なんだろう?」

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