《MUMEI》 みんな3食堂に入ると、いくつか並べられた椅子とテーブルに、男が五人座っていた。 にやにやと薄い笑みを浮かべ、こちらを見る男たちを見ると彩矢の頭は、霧島の持っていた『取り扱い説明書』のことに支配され、不安が一気に押し寄せる。 「ね、ここ座んなよ、ここ!」 そんな彩矢の心境を知らない清人は、ついさっきまで自分が座っていた席の隣の椅子を引いて、彩矢に座るように促す。 「おまえは少し落ち着けよ」 そう言って、涼介が清人の頭をはたくと、周りの男たちが笑った。 彩矢はその環境に堪えられず、逃げるようにいちばん端の席に座った。 「…なんだよ」 清人は、ふてくされたように呟くと、自分の席に座った。 「なに、おまえ傷ついてんの?」 涼介が聞きながら、清人の横に座った。 清人は横目でちらっと涼介を見てから、満面の笑みを浮かべた。 「涼ちゃん慰めてくれんの?」 「あほか。それに気持ち悪い呼び方すんな」 「なんだよ冷たいな」 清人はそう言って口を尖らせたが、すぐに笑顔になり、手で口元を隠しながら小声で涼介に言った。 「でもさ、あの娘ヒットじゃね?久々に涼介以上の可愛い娘見た気する」 涼介が清人を睨んだ。 「あ、ごめん…禁句ね禁句。でも気は強そう…ずっと下向いてたくせに一瞬、俺のことすげー目で睨んだからね」 「おまえはそうやって、また喰うこと考えてんだろ。そういう下心見せるから嫌われんだよ」 「確かに…。その点、涼介は上手いもんな、でも嫌われてんのに食べちゃうってのも、なんかそそる」 そういたずらっぽく笑った清人だったが、涼介の不機嫌そうな表情を見て、真面目な顔になる。 「おまえ、そういうの嫌いだもんな…ごめん、ふざけすぎた」 気まずくなってしまった二人の空気を打ち消すように扉が開き、英里が入って来た。 「お待たせ〜、ちょっとみんないつもより顔が明るいねぇ?可愛い新人さんにテンション上がっちゃった?」 そう言いながら、英里は男たちに紙を配っていく。 彩矢は自分に配られないその紙が、霧島の持っていたものではないかと、不安で気が気ではなかった。 「そこに書いてあるのちょっと目通しといてね〜」 そして英里は彩矢に作業着を手渡し、小さな声で言った。 「心配しないでね?あの子たち教えるの下手だから新しい子が来たらマニュアル通り指示するようにあの紙渡してるだけだから」 英里の言葉を聞いて、彩矢は胸を撫で下ろした。 だが安心したのと同時に、英里は知っているんではないか、という不安も出てきた。 「あと、これは彩矢ちゃんの作業着だから作業に入る前に更衣室で着替えてきてね」 前へ |次へ |
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