《MUMEI》
大切なもの
名前は確か、佐野結菜(サノ ユイナ) 僕と同じクラスの大人しい女の子。


目立たない存在だけど、僕と同じクラスで浮いた存在だから、なんとなく覚えてた。
僕は泣いている彼女が、少し気になって、声を掛けてみた。

「佐野……さん?」

佐野さんは、泣きはらした顔で振り返った。
名前を間違えてたらどうしよう、とか思ったけど佐野さんが振り向いたから、安心した。

「どうしたの?」

そう尋ねると佐野さんは、暫く悩んだようにしてたけど、ぽつりぽつり話してくれた。


佐野さんは中学の頃、親友だったはずの女子にいじめられているらしい。
同じ高校に入学して、高校になっても親友だと約束したのに、何故いじめるようになったのかわからない、と。


そんな話を聞いていると、とても他人ごととは思えなかった。

「そっか…、全然そんなふうには見えないのに…佐野さんも大変なんだね」

「……戸村さんは、強いよね」

佐野さんが急にそんなことを言い出した。

「強い?なんで?」

「だって戸村さんが誰かといるの見たことない。いつも独りで…あぁ、あの娘もあたしと一緒なんだなぁ…って、いつも見てた」

佐野さんが僕を見てるなんて、気付かなかった。

「だけど戸村さんは、そんなのちっとも気にしてる感じがなくて…」

遠くを見ながら話してた佐野さんが、僕を見た。

「戸村さんは友達作らなきゃって思わないの?独りで寂しくない?」

「え?」

僕は暫く考えた。
本当は男だから、あまり話せないんだ…なんて、言えるわけがない。

「…作ろうと思って作るものじゃない…から」

いい答えが見つからなくて僕は、そう言った。
佐野さんは、不思議そうに僕を見ている。

「…本当に信用できる友達がいればいいから……だから、無理に作った友達はいらないかな…って」

「そっか…そうだよね、戸村さんの言う通りだよ」

そう言って佐野さんは、僕が言ったことに納得していた。

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