《MUMEI》

その中にあって、血に塗れた今の自分の姿はあまりにも不釣り合いだ、と
人気の少ない裏路地を通り自宅へと向かう
「……何やってんだよ。俺は」
つい愚痴が口を吐いて出る
愚痴って見た処で何が変わることもないという事は充分に理解はしていた
だが言わずには居られなかったらしい
誰かに、何かに、説明を乞うてやりたい、
そんな衝動に駆られてしまう
そのまま色々と考えこみ、漸く自宅へと帰り着けば
だが其処で、井原は自宅前に見覚えのないモノがある事に気付く
真紅の花を咲かせる、紫陽花
ソレが大量に自生していた
朱の紫陽花の下には、死体が埋まっている
その言葉を思い出し、つい視線を逸らしてしまう
「……じ、さ……」
不意に、聞こえてきたか細い声
突然のソレに、ど何処から聞こえてきたそれなのか、辺りを伺って見れば
その声は意外にも井原のすぐ近くから、聞こえてくる
「……お前、か?」
抱えていたほう助の肢体
小脇に抱えていた頭部からその声は発せられていた
消え入るかの様なか細い声で
一体何を訴えたいのかと口元へと耳を寄せてやれば
「……朱い、紫陽花」
か細く、震える声が聞こえてくる
朱の紫陽花の下には、死体が埋まっている
今時分その言葉を思い出してしまえば
ソコだけが酷く異様な景色の様に感じられた
暫く、その場に立ち尽くしていると、偶然にも其処を通りかかった野良犬
何かを嗅ぎ取りながらその根元を掘り始める
銜え引っ張り出してきたのは、ヒトの腕の様に見える塊
そのまま引きずり、その姿が顕になった
鼻を衝く様な異臭を漂わせる、まさに屍
生きていう人間からは決してしないソレに
井原は表情をゆがめてしまう
「……れで、構わ……い」
「は?」
また声がか細くなったかと思えば、井原の腕から少女の頭が転げ堕ちた
自然に落ちた訳ではなく
ソレは確実に自らの意思を持って動く事をしていた
掘り出された屍の、元まで転がって行くと
徐に、唇を重ねた
瞬間、脆くなった土壁の様に少女の頭は塵と化し
その直後、屍の指先が僅かに動くのがしれた
弾かれる用にそちらへと向いて見れば同時に、屍の眼が確実に開く
暫く井原を眺め、そしてすぐ様口元に僅かな笑みを浮かべて見せた
「……男の身体は、初めてだわ」
少女の口調
だが声色は男のそれそのもので
本当に本人なのか、井原はうち訝しんでしまう
「……でも、動きやすい。とても」
フッと緩ませたその表情に、井原は少女の面影を見、
目の前のソレが本人なのだと実感した
「で?これからどうするつもりだ?」
乱れていた着物を丁寧に直す事をする相手へと徐に問うてやれば
珍しく考え込む様な素振り。そして
「……婆を、殺しに」
短く返ってくる
「……婆を殺さない限り、屍が増え、死に体がまた売られる」
ソレを止めなければ、と前を見据える
思いつめたような表情
呼吸さえも忘れてしまっているのでは、と感じる程硬過ぎるソレに
井原は溜息を一つつくと
手荒く相手の髪を掻き乱し、その緊張をほぐしてやった
「……何、するの?」
睨みつけられたが井原は動じることなく
そのまま身を翻し、歩く事を始めていた
今、自分は何をするべきなのか
皆目見当もつかなかったが、立ち尽くしているよりは建設的だと
井原は目的なく歩き続けたのだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫