《MUMEI》
タイムリミット
.


日が明けて、月曜日を迎えた。


普段通り学校へ登校し、友人とふざけ合ったりしながらも、滞りなく一日のカリキュラムを終える。

夕方のホームルームが終了すると、クラスメイト達は我先にと教室から出ていく。

静まり返ったその教室に残っているのは俺と憂のふたりだけだった。

俺達はお互いに顔を見合わせることもなくそれぞれの席についたまま、黙り込んでいた。あまりに静かで耳が痛くなるほどだ。

いつもであればグラウンドから運動部のかけ声が微かに流れてくるのだが、それも聞こえない。そういえば明日から期末テストが始まるから部活動も全体的に休みになっているのだ、ということを思い出す。けれど、それも今となってはどうでもいいことだ。



『あの女は、あなたを狙ってる』


昨日、憂に言われた台詞がまだ頭の中に響いている。


やがて、憂が椅子から立ち上がった音が聞こえてきた。軽やかな足音が近づいてきて、俺のすぐそばで止まる。俺はゆっくり視線を巡らせた。憂がそこに立っていた。

彼女は無表情のまま俺の顔をじっと見つめていたが、その瞳は不思議な輝きを秘めていた。

「いよいよね…」

彼女は柔らかな口調で囁いた。俺は黙って頷く。何のことか言われなくても、わかっていた。



―――いきましょうか…。



ピアノの旋律のような、彼女の美しい抑揚に誘われるように俺はゆっくり立ち上がった。鞄を手に取り、肩にかける。ずっしりとのしかかる重みが何だか嘘みたいだった。


あの動画を見てから、今日でちょうど1週間になる。


《写り込む女》は、今日必ず現れるはずだ。



ターゲットである、俺の命を奪うために。



助かる術は、まだわからない。この後、俺にどんな恐怖が待ち受けていて、そしてそれを上手く回避できるのかすらわからない。


それでも、不思議と穏やかな気持ちだった。


あなたは、死なせない。

そう、憂が言った。たとえ気休めであっても、彼女は最後まで戦うつもりなのだ。



《写り込む女》の魔の手と。



俺と憂が並んで教室を出たとき、ちょうど隣のクラスもホームルームが終わったようで、一斉に椅子を引く喧しい音が聞こえてきた。



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