《MUMEI》

足音が聞こえなくなるまで息を殺して待つ。
やがて完全に織田の気配を感じられなくなってから、ようやくユウゴはホッと息を吐いた。
何があったのかわからないが、とりあえず助かったようだ。
「おい、生きてるか?」
ケンイチの顔をペンペン叩くと、その眉間にシワがよった。
「生きてるに決まってるだろ」
答えたケンイチの声は弱々しい。
「そりゃ、残念だ」
ユウゴは言いながら社の下からはい出る。
そして周りの様子を確認してからケンイチの服を掴んで引きずり出した。
「動けるか?」
尋ねて、動かさない方がいいとあらためて気づく。
彼が横たわっていた部分には血の跡が残ってしまっていた。
まだ出血が止まっていないのだろうか。
ケンイチの顔色は、もうほとんど死人のようだ。
「何してんだよ。行くんだろ? さっさと行こう」
悩むユウゴの耳にケンイチの掠れた声が響いた。
彼もこの場にいるべきではないとわかっているのだ。
ユウゴはフッと息を吐き出すとケンイチを背負う。
しばらく休んだおかげか、腹部の痛みはさほどでもない。
ただ、何かの拍子に激痛が走るので油断はできない。
「とりあえず、医者がいるな」
口の中で呟きながら、ユウゴは境内を歩く。
どこへ向かうべきか考えつつ、神社の外へ向かう。
そのとき、ふいに目の前に何者かが現れた。

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