《MUMEI》

樹紀はゴクリと唾を呑んだ。

「それは、お前の生まれる前の話し…お前の父さん母さんが結婚した直後のことだった。
まあ、そのころも今と同様この町も荒れておった。そんな中、キミの父さんが大胆な発言をした。」

案内使は、樹紀の顔をまじまじと見た。

「どんなことを言ったの…?」

「…それはな」

案内使が言う前にズドンッ…と変な音がした。

「何…今の音。」

樹紀が言うと、案内師はスクッと立った。

「今の話はこれでおしまいだ…嫌な予感がする。」

「嫌な…予感?」

「うむ。」

それっきり、案内使はピクリとも動かなかった。耳を澄ませて何かをきいていた。
ダッダダッダ…と、大ぜいの人の足音が聞こえる。

「何…!?」

「やはり…きたか。逃げねば」

そういって案内使はグッと樹紀の腕を引っ張った。

「ちょっ…まっ…」

樹紀の言うことも聞かずに、案内使は走り続けた。

「ふぅ…そろそろいいか」

そういって、ある古風な店の前だった。

「ここは…?」

「あまり入りたくはないが、ここしかないからな…」

そういってガラン…と店のドアを開けた。

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