《MUMEI》












「でさ、そのバイトの子がトムとジェリーはねずみと犬ですよね?とか言ってさ―その場にいた作業員皆大ウケ!エハハハハ!」

「へー…」












今日の気分は中華だったので
麻婆豆腐と青椒牛肉にしてみました。

……あ、なんか肉まんも食べたくなってきた






食卓を囲む中、一人喋って盛り上がる父にあたしは素っ気なく相づちを打つ、

まぁ無視はさすがに可哀想だからね
どーでもいい内容だけど反応したげる




つか、笑いかたおかしくね?とか思ったが言わずに胸に閉まっとこう。うん、言うのさえ面倒だし










4杯目のごはんを口に入れながら思う。

(陽気なのはいいけど、行き過ぎてて結構鬱陶しいなァ)






昔からこの人はそうだった

しっかり者のお母さんと正反対でいつもニコニコ笑ってて、何がそんなに楽しいのか理解出来なかった子供の頃のあたし、

だけど一度だけ泣いた
一度だけあたしたちに笑顔を見せなかった






大好きな大好きなお母さんが
死んでしまったあの日








お父さんは泣き崩れて
何度も何度も名前を呼ぶ

返事なんて返って来ないのに


何度も何度も抱きしめる

もうそこに温もりなんて無いのに














今こうやってまたお父さんの笑顔が戻ったのは奇跡なのかもしれない


『時が経てば忘れられる』
誰かが言ったその言葉、

嘘つき、癒えなんて一向に来ないじゃないか


残された人間にはただただ消えないインクのように深く記憶として刻まれるだけ……



………………………
…………………













「おい花笑?」

「!!」











ハッと我に返ると箸が止まったままだった。




「…もう、腹いっぱいか…?」

「何でそんな恐る恐る?」

「食べない花笑は逆に怖い」
「んだと?」

「怖いよ―亜紀―」

「……………………」

「え、もしかして引いてる?亜紀引いてる?」









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