《MUMEI》
思い出の場所
「ただいま〜!!」
今宵は玄関を上がると、台所にいるであろう母に向かって声をかけた。
この声を聞いて、加奈子はフライ返しを片手に玄関を覗く。
「あら、お帰り。ご飯できてるから早く着替えてきなさい!!」
「はーい・・・・・・っていないし」
言うだけ言ってさっさと台所に戻った母に、今宵は軽く突っ込む。
着替えてこよ。
今宵は階段を上り、自分の部屋に入った。
バスッと手に持っていた中身のあまり入っていない鞄をベットに置く。
そして制服のリボンに手をかけると、机に置いてある写真立てに目がいった。
今宵の手が自然とその長方形のものを手に取る。
「今年も行くからね。お父さん、朔夜お姉ちゃん」
ポツリと呟くと、スルッとガラス越しに写真を撫でた。
今宵の目に入っているのは、写真一杯に写る沢山の『ヒマワリ』。
今年もキレイに咲いてるといいな・・・・・・。
今宵はそっと目を瞑り、キュッと写真立てを抱きしめるように自分の胸に当てる。
写真にあるヒマワリ畑は、毎年この時期になると行っていた場所であった。
既にこの世にはいない父と姉、そして今、今宵を1人で育てている母と共に。
今宵は今年もその思い出の場所に向かう。
自分と姉の誕生日である8月に、太陽を一杯に浴びて咲くヒマワリを見るために。
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