《MUMEI》
赤い車
「……来ないな」
友人が去ってからすでに二時間が経過していた。
 公園で遊んでいた子供たちも、昼食のため家へと戻り、タイキの周りは寂しく静まり返っていた。
タイキのお腹も腹が減ったと悲鳴をあげている。

「帰るか」
そう呟き、ベンチから立ち上がった時、公園の前の道路に真っ赤な車が停車したことに気付いた。
 何気なくその車の運転席を見ると、ウインドウがスーっと開き、中から見覚えのある顔が覗いた。
ミユウだった。

「なにしてんの?」
彼女は近づくタイキに不思議そうな表情でそう聞いた。
「何って……」
ミユウを待っていたとは言い出せず、タイキは適当な言い訳を探す。
「図書館からの帰り道だよ」
「図書館?」
「僕は一応、受験生だからな」
ミユウは「へえ」と興味なさげに応えると、思い付いたように「ご飯食べた?」と聞いてきた。
「え、いや?まだ」
「そ。じゃあさ、食べに行こう」
「は?」
「早く乗れば?」
タイキはよくわからないまま、とりあえず助手席のドアを開けた。

「この車って、自分の?」
 タイキは車を走らせるミユウを見ながら聞いた。
彼女は「まあね」と頷く。
「……買ったの?」
「……これ、万引きしたと思うわけ?」
「…やりかねない」
タイキが言うとミユウは、乾いた笑い声をあげた。
「貰ったんだよ」
「貰った?って、これを?」
「そう。お仕事の報酬、みたいな」
「ふーん。……一応聞くけど、なんの仕事?」
「悪いこと」
ミユウは即答する。
「……だよな」
タイキは苦笑しながら、しかし納得して頷いた。
「なに、それ?」
「だって、仕事の報酬で車なんて……まともな仕事じゃないだろ」
「……そうなの?まあ、そうかもね」
ミユウは少し考えて頷いた。

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