《MUMEI》

突然のことで、ユウゴは思わずその場に立ちすくむ。
そこには一人の男が立っていた。
まだ若い。
いや、若いというよりもまだ子供だ。
身長もさほど高くない。
その右手は怪我をしたのか血で濡れていた。
走ってきたのだろう、軽く息を弾ませる少年はユウゴをじっと見つめると笑みを浮かべた。
「久しぶり、兄ちゃん」
懐かしさを感じさせる声に、ユウゴは何度も瞬きを繰り返した。
「サトシ……?」
「どうしたの、変な顔して」
サトシは不思議そうに首を傾げると、ユウゴの背に目を向けた。
「そっちの人、怪我してる?」
ユウゴが頷くと、彼は自分について来るようにと言って歩きだした。
「ちょっと、おい!待てよ!なんでおまえ、ここに? いや、それよりも俺に関わるなよ。せっかく助かったのに」
しかし、サトシは構わず歩きつづける。
「サトシ!」
ユウゴが名を呼ぶと、ようやく彼は立ち止まった。
その顔は気のせいか、プロジェクトで共に行動していたときよりも疲れて見えた。
「大丈夫だよ。今は見張りもいない。僕の知り合いに医者がいるんだ。といっても免許はないけど。その人、早く手当てしないと」
「じゃあ、場所教えてくれ。行くから」
しかし、サトシは首を振った。
「ちょっと複雑な場所にいるんだ。一緒に行ったほうが早いと思うから」
ユウゴはサトシの顔を見つめた。
あのときと変わらず、まだ少年らしい顔つきだ。
しかし、あの時のような無邪気な表情は微塵も見られなかった。
「わかった。じゃあ、頼むわ。連れてってくれ」
諦めたようにユウゴが言うと、サトシは目を輝かせて頷いた。

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