《MUMEI》
僕だけ
「みんな、精神的に参ってて、命が助かるならってさ。僕の言うことなんて聞きもしないで」
「……それで?」
ユウゴは真剣な表情で先を促した。

「それから僕たちは、どこかのホールに連れていかれた。驚いたよ。そこには僕たち以外にも大勢の人がいたんだ。多分、みんな同じように警備隊の奴らに連れて来られたんだろうけど……。そこで一日待たされた。もちろん、一切食料は与えられずにね」
サトシはここで言葉を切り、疲れたように息を吐いた。

「そして数時間前、ようやく奴らが現れたかと思うと、これを配ってきたんだ」
そういうとサトシは自分の右足を突き出した。
「……これって」
ユキナは驚きのあまり口を覆った。

 今まで裾に隠れて見えなかったが、彼の右足首には黒い足枷がはまっている。
「これは常に振動を与えていないと爆発する仕組みになってる。横のところに起動スイッチがあってさ。みんな、何も知らず言われるままに押してたよ。僕は、押す振りだけして……」

ユウゴとユキナはその足枷をじっくり観察した。
そして、顔を見合わせる。
「ねえ、これって、もしかして?」
ユキナの問いにユウゴは頷いた。
「あいつらと同じだな」
「あいつら?」
サトシは顔を上げた。
「あの駅に行く少し前に出くわしたんだ。警備隊に追い掛けられてる妙な集団に」
「本当に?」
ユウゴは深く頷いた。
「……その中に、あいつら、いた?」
サトシは苦しそうに、そして悲しそうに、表情を歪めた。
「……ああ。多分」

あの時見た少年、少女。
どこかで見たことがあると思ったら、サトシの仲間だったのだ。

 顔を見たのは一度きり、あの時も一瞬しか見ることはできなかったが、おそらく間違いないだろう。

「…それで、あいつら、どうなった?」
 震えるサトシの言葉に、ユキナもユウゴも応えることができない。
そんな二人の様子をサトシは答えと受け取ったのか「そっか」と俯いた。

「……僕だけ、逃げた。みんなを裏切って……」

静かな屋上に、サトシの声が切なく震えた。

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