《MUMEI》

2日前−−−−。


私は、教室のドアの前で大きく深呼吸した。

「おっはよ〜」

「おっはよ〜、彩香〜」

真っ先に挨拶を返したのは、美由紀だった。

「ねぇ、彩香聞いてよ。昨日のバイト最悪なのよ〜」
「な〜に〜、美由紀、また何かやらかしちゃったの?」

とりあえず話しにはのる。でも、あまり真剣には聞かない。
どうせ、この会話は日常茶飯事。前にも一度聞いたことがある。
だから、聞く耳だけたてておけばいいのだ。

美由紀はずっと、バイトの愚痴をこぼしていた。
私が真剣に聞いていると思い、長々と話している。
正直……うるさい……。

私は心の中で叫んだ。


お昼になっても、美由紀は話し続けていた。
かなり腹をたてていたのだろう。同じことばかり繰り返している。

私は半分聞き流しながら、屋上へと階段を上がった。もちろん、はなしつづけた美由紀も一緒だ。

「ねぇ、聞いてる?彩香ってば〜」

「聞いてるよ」

「絶対聞いてないよ〜。だって、うわの空って感じ」
「だから聞いてるって」

「ううん、聞いてないっ」

美由紀はしつこい。
昔からこうだった。
私は今まで、嫌われたくない一心で我慢してきた。
毎日、いい子のふりして大変だった。

そう思った瞬間、私の中の何かがはじけた。


「……うるさい」

肩が震えてくるのが、自分でもわかった。
何かにとりつかれたように、身体全身に寒気が走り、鳥肌がたつ。

「うるさい、うるさい、うるさい」

頭が真っ白になり、何がなんだかわからない。

美由紀は、異変に気付いたのか、いつのまにか話をやめている。

「どうしたの、彩香。変だよ」

私は美由紀の声が聞こえなかった。
屋上のフェンスに向かって、足が勝手に動きだし、私の手が勝手に、フェンスに手をかけようとしている。
「彩香、やめなよ」

「うるさい、うるさい」

「彩香っ」

美由紀が叫んだ瞬間、すでに私の姿は、そこにはなかった。

「彩香ー!!」

美由紀の声だけが、こだましていた。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫