《MUMEI》

お前にとって、人生最大の汚点はほぼ間違いなく俺だろう。なに、怒っているわけじゃあない。後悔しているんだ、俺は。この世に生まれ落ちてしまったことに。


「フリッピー君は、どうして君といるんだい」


そんなこと、俺にわかるわけがない。それなのにこの男は、“こういうこと”を聞いてくる。知るか、本人に聞きやがれと何度言ったことか。それでも男は何度でも同じ質問をした。


「知らねえって言ってんだろ。お前に学習能力はねえのか?」

「私は知りたいだけだよ」

「だから知らないことをどうやって話せと」


俺はあいつから何も聞いてはいないし聞く気もない。今後も、だ。気にならないわけではない。それでも、聞く必要もないと思っている。つまるところ、面倒なのだ。


「しつけぇんだよ、テメェは」

「しつこいのは嫌いかな?」

「当たり前だろ。しつこいのが好きなのは女……」


男は何の前触れもなく、急に顔を近付けてきた。ダンと叩き付けられたテーブルは僅かに軋み、カップの中身が少し跳ねた。何だよ、と妙な沈黙を破れば、男は何やら愉しそうに口許を歪めた。まさに、ニヤリといったかんじだ。


「驚いたかい」

「……意味がわからねえ」

「単に君の眼を間近で見たくなっただけさ」

「ますます意味がわからない」


男はさも愉快そうに、はははと笑う。それが少し気に食わなくて、男の横っ面にグーをお見舞いした。しかしそれは呆気なく片手に阻まれてしまう。パシッという軽い破裂音が静かな店内に響く。


「私はね、知りたいんだよ。フリッピー君のことも、君のことも。同じだけ知りたいんだ。悪いことかな」

「ああ悪いね。お前が知っていいことなんてひとつもない」

「ははは、酷いなあ……。それなら、何をしてでも教えてもらうしかないね」

「お前が知る術なんかない」

「そうかな?」


ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべる目の前の男に、嫌な印象しか持てなかった。何を考えている。こいつは捕虜を拷問にかける時の厭らしい目だ。お前に助かる術などないと。逃げることは不可能だと。あの恐ろしい目が囁く。

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