《MUMEI》
3 曇り空
 「今日は、雲がいっぱい」
空をみ上げながら、徐にハルが呟く事をしていた
傍らでソレを聞いていた桜井。どうしたのかと顔を覗き込んでやる
「ハルは、曇った日が嫌い?」
何となく憂鬱そうな様子につい問うてやれば
ハルはゆるり首を横へと振ってみせながら
「……嫌いじゃ、ない。でもちょっと、苦手」
複雑そうに、顔を伏せてしまう
どんどんと暗くなっていくハルの表情に、桜井が困り果てていると
「よく苛められていましたからね。ハルは」
雨月が説明を補足してやる
普段あまりみる事のないハルの表情にどう返してやればいいのかが分からず
桜井は苦笑を浮かべながら、徐に、曇る空を見上げてみる
「……早雲、意地悪なんだもん」
僅かに不手腐った様にハルは頬を膨らませる
珍しいその表情に、桜井が雨月へと向いて直れば
その雨月も若干の苦い顔だ
「……悪いやつではないんですよ。唯、性格に若干の癖があるだけで」
「癖って?」
「聞きたいですか?」
満面の笑みの雨月
その表情で、良からぬ何かを感じ取ったのか
桜井は慌てて首を横に振る
「おや、それは残念です」
態とらしく肩をすくめて見せる雨月
だがその口元は笑みに緩んだままで
見かけによらず性格が悪いのかもしれない、と
桜井は顔を引きつらせてしまった
「歩、大丈夫?」
心配そうに桜井の顔を覗き込んでくるハル
大丈夫と何とか返そうとした、次の瞬間
「なになに?もしかして俺の話だったり〜?」
窓が勢いよく開く音が鳴り
開け放されたそこから、見知らぬ男が顔を出してきた
意地の悪そうな笑みを口元に浮かべるその男を見
ハルは明らかに動揺し始める
「そ、早雲!?」
「ハル〜。お久〜」
間延びした挨拶を適当に交わし
その男、早雲は覗いていた窓をよじ登りながら部屋の中へ
「へぇ、これがひまわり、ね」
入るなり物珍しい動物でも見るかの様に桜井を眺めはじめ
顔が間近に寄せられ、居心地の悪さについ後ずさってしまう
「歩苛めるの駄目だよ!早雲!」
「別に苛めてなんてねぇだろ。なぁ?ひまわりちゃん」
更に間合いを詰められ、桜井は更に近づき過ぎたソレに動揺してしまう
早く離れて欲しい、と慌てて何度も頷いて返す
「ほらな。ってぇ訳で、俺も世話になっから。ヨロシク〜」
言葉も途中に桜井へと手を差し向けたと思えば
避ける暇などないまま頬がその手に捕らえられ
引き寄せられたかと思えば突然キスを一つ
「!?」
「隙だらけ。気ィつけな〜」
そのまま踵を返し、部屋をちおび出していった
余りの勢いに、桜井はその様を呆然と眺め見るしか出来ない
「……全く、早雲も相変わらずですね」
「相変わらずって、いつもあんなにテンション高いの?」
「はい、大体は。あ、でも……」
「でも?」
「早雲は、(雪舟)でも在りますから」
「え?」
一体どういう事なのか
解らず首をかしげて見せる桜井へ
だが雨月はそれ以上は詳しく話す事はせず
「行って、見てやって下さい。多分、解ると思いますから」
「行くって、何所に?」
小首を傾げて見せれば、雨月は笑みを浮かべたまま上を指差す
自室である其処の上には屋根しかなく
ソコヘ登れという事なのか、と雨月の方を見やれば頷かれた
お願いしますね、と片眼を閉じ笑みを更に浮かべられてしまえば
それ以上、桜井には何を言って返す事も出来なかった
雨月の手助けも借り、何とか屋根の上へと登って見れば
だが其処に早雲の姿はなく
淡く、そして白い雰囲気を持つ青年が一人佇んでいた
「だ、誰……?」
つい声を出してしまえば、その青年が振り返ってくる
「……雪舟。お前は?」
自身の名を名乗りながら桜井へも問う
「わ、私?私は、桜井 歩、だけど……」
戸惑いながらも自身の名を名乗ってやれば
まじまじと眺め見られ
「歩、か。それで?お前はひまわりなのか?」
矢継ぎ早に相手・雪舟が問うてくる
早雲は雪舟でもある
雨月の言葉を思い出し
その余りの雰囲気の違いに桜井は驚いてしまっていた
「……全っ然、違うじゃない!」
「何がだ?」
「あんたと早雲!何でこんなにも違う訳!?」
「……?」
桜井が何をわめいているかが分からない様子で

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