《MUMEI》

 異変は、定期的にやって来る搬送機械の作業員によってもたらされた。
「卵が、ない」
 あれ程、降りしきっていた錦糸は既に止んでおり、道端で踏み潰されていた残骸さえ姿を消していた。
 いつの間にか様々な種類の花が、むせるような香りと共に、町中を埋め尽くしていたのである。
 いくら雨季の間、いい顔をしない住人であっても、卵は卵殻庭の大事な資金源である。
 町の機能を正常に働かせることが出来なくなるのは、分かり切っていた。
「卵の商人はどこだ」
「卵を返してくれ」
 卵殻庭の卵は、苧環の花を生み出す卵と交換され続けていたので、彼の懐に全てあるはずなのである。
 人々は口々に叫び、求める姿を探し始めた。
 既に時は遅し。

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