《MUMEI》 恐怖心. 音もなく悠然と立ち並ぶ本棚の群像は、無機質で味気ない。 憂がいたはずの棚の近くには彼女の姿はなく、その代わりたくさんの本が整然と並べられていた。棚と棚の間にある通路を早足で抜けながら、彼女の姿を探し歩いた。 フロアの奥まで進んだが、憂はいない。そこは丁字路のようになっており、右か左に曲がらなくてはならなかった。 俺は天井を見上げる。壁一面を覆っている本棚が途方に暮れて歩き回る俺を嘲笑うように見下ろしていた。 防犯用だろうか。天井の端から丸い形の鏡が吊り下げられている。道路などで見かけるようなものと形がよく似ていた。何気なくその鏡を見つめてみると、下から見上げる俺の姿と逆側の棚の通路が写っていた。魚眼レンズで写したように風景が歪んでいるのは、恐らく鏡の表面が丸くなっているからだろう。 そして、そこに探していた人物が小さく写り込んでいた。黒い制服を着た憂である。どうやら隣の棚を見ていたらしい。彼女は真剣な様子でじっくり棚を見つめている。 俺は彼女に検索結果を伝えるため、その場から離れようと天井の鏡から目を逸らそうとした。 そのとき。 鏡の中の俺の背後に、枯れ枝のように細い足首が写っていることに気づいた。ドキリと心臓が勢いよく跳ねる。嫌な予感がした。 その足首はゆっくりと一歩ずつ前に踏み出し、俺の背後に近づいてくる。じわじわと追い詰めるように。見てはいけない。そう思うのに鏡から目が逸らせない。金縛りにあったように身体が動かない…。 呆然と立ち尽くす俺とそれはだんだんと距離をつめ、やがて現れたのは、 ―――真っ赤なワンピースの裾だ。 瞬間、俺はいきなり振り返った。しかしそこには誰も居らず、その事実に背筋が寒くなる。 ついにアイツがやって来た。 俺を探しに、 いや、 俺を殺しに。 . 前へ |次へ |
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