《MUMEI》

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しかし、憂はちょっと俺とは違った状況のようで。

「君の結果はどうだった?」

尋ね返してやると、彼女は肩をすくめた。

「わたしも散々だったわ、女のことが気になって勉強どころではなかったもの」

言いながら自分の鞄から答案用紙の束を取り出して俺に渡す。俺はそれを眺めてしばらく考え込んだあと、憂の顔を半眼でにらんだ。

「…俺の視力が悪くなければ、君のテスト結果は平均80点くらいだと思うんだが」

彼女は、そうね、と至って易々と頷く。俺は彼女に答案用紙を返してため息をついた。

「これのどこが散々なんだよ?」

悪態をつくときのような尖った声で言うと憂は少し残念そうな顔をした。

「わたし、今までずっと90点代しか取ったことがないの。がっかりよ」

「がっかり…?」

「今回のテストで順位が落ちてしまったのよ。学年8位なんて冗談じゃない」

「…イヤミなのか?ナチュラルにイヤミなのかそれは」

僻みきっている俺を無視し、憂は相変わらず涼しい顔で、そんなことより、と話題を変える。


「《写り込む女》は、どう?」


俺の赤点を『そんなこと』呼ばわりされたのはいただけないが、取り合えず彼女の質問を無視すると面倒くさいので、一応返事代わりに俺は首を傾けた。


書店で対峙してからも、《写り込む女》は憂が苦言した通り、度々俺の視界に写り込むようになった。家にいても登下校中も授業中も休みの日でも、まさにいつでも、どんなときでもお構いなしである。

とりわけテスト期間中は最悪だった。テストの問題と悪戦苦闘している最中に、あの女ときたら机のすぐそばで、俺の顔を覗き込むように立っていた。しかも毎時限、同じ体勢で、である。どうやら相当自分の存在を誇示したくて仕方ないようだ。


対して俺は、憂のアドバイスに従って『女の姿が見えないフリ』に勤しんだ。


要するに無視である。どんなに不気味な出現をしても徹底的にシカトをし、怯えや恐怖などが顔に出ないように努力した。

シカトする度、女は困惑したように首を傾げていた。まるで、アタシのこと見えてたんじゃなかったっけコイツ、とでも言わんばかりの仕草である。



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