《MUMEI》

.


今では女の現れる頻度が目に見えて減ってきた。きっと俺のことを諦め始めたのかもしれない。もう少しの辛抱だと思う。


「相変わらずだけど、もう心配はいらないんじゃないかな?」


俺は肩をすくめて答えた。憂は一度瞬きをする。

「よかったわね、大事にならなくて」

「まあね、誰かさんのおかげでめちゃくちゃ怖い目に遭ったけど」

皮肉で返すと彼女は心外そうに眉をひそめて、あら?と声を荒げる。

「でもあなたが助かったのは、その『誰かさん』のおかげじゃなくて?」

本当のことなので咄嗟に言葉を返せない。悔しげに押し黙る俺を見て彼女は勝ち誇ったような顔で、死ぬほど感謝するがいいわ、と悪魔のように高飛車な言い方でそう言ってのけた。


結局、《写り込む女》の真相や、全ての元凶である憂のふてぶてしい態度や、俺と彼女のテスト結果など納得いかないことはたくさん残っているが、取り合えずは無事に完結したこととして、まあめでたしとする。


憂は俺から視線を外し、窓の外を眺めた。

「もうじき夏休みね…」

感慨深そうな彼女に俺は皮肉る。

「俺はみっちり補講だけどな!」

しかし憂はどこ吹く風で、サラッと答える。

「たとえ補講を免れたとしても、同好会活動があるから結局は同じことよ」

彼女の言葉に俺は目を剥いた。

「夏休みも!?」

「当然よ、解決しなければならないことはまだまだたくさんあるわ」

「まさか補講組の俺にも参加しろとか言うワケじゃないだろね!?」

「もちろんそのつもりだったけど、何か問題でも?」

マジか、勘弁してくれ。そう呟いた俺の声を無視して、憂は自分の腕時計を眺めると、そろそろ帰りましょうか、と他人事のように囁いた。



かくして俺の受難はまだまだ続きそうである。






―――《写り込む女》完結。



******

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫