《MUMEI》
動く揺りかご
歩雪と今宵は、ガタンゴトン、と独特なリズムで揺られている。

「う、わー!!海、キレイだねぇ!!」

「ん?」

今宵が覗いている大きな窓の向こうにある景色を、歩雪も覗き込む。

動くその景色は、一面の水溜りが張っている。

今宵と歩雪はヒマワリ畑に向かうべく、電車に乗っていた。

「いくつ目で降りるんだっけ?駅」

「えっと・・・・・・9こ目だよ!!」

「ふーん。じゃあ少し時間あるね」

「うん?20分ぐらい乗ってるかな」

今宵は歩雪の質問の意図がわからず、首を傾げる。

何でこんなこと聞くんだろ?

その姿を見て、歩雪は小さく溜息をついた。

「顔色悪い。昨日ちゃんと寝てないでしょ」

「え?」

何で分かったんだろ?

昨日は今日のことが楽しみであんまり寝てないんだよね。

小学生が遠足を楽しみにしているような心境で、ワクワクしていてなかなか寝付けなかったのだ。

歩雪はもう一度溜息をつくと、呆れたように言った。

「ほら。肩貸してあげるから、少し目瞑ってな。この暑い中歩いたら倒れるよ」

「う、うん」

今宵は、失礼しまーす、と小さく呟いて歩雪の肩にちょこんと頭をのせる。

ドキドキするけど心地よい・・・・・・。

今宵は目を瞑ったと思ったら、すぐに眠りの世界へ落ちた。

歩雪の肩には重みが増す。

寝た、かな。

昨日寝れなかったなんて、こーらしい。

幼稚園の遠足の時からそうだったから。

その時からこうやって肩を貸したっけ。

歩雪は今隣で寝ている今宵と、小さい頃の今宵を比べて口元を緩める。

でも。

一回寝るとちょっとのことでは起きないんだよな・・・・・・。

ちら、と今宵に目線を向ける。

どうやって起こそうかな・・・・・・?

機嫌悪くて噛み付かれたらどうしよ。

歩雪は、今宵が猛獣の如く噛み付いてくるところを真剣に想像した。

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