《MUMEI》
CASE-3 悪魔払い
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―――その人物の予期せぬ来訪が、それまでの俺達の日常を一変させた。



夏休みも終盤に差し掛かると、期末テストの赤点のペナルティーである特別補講もいよいよ終わりが見えてきた。

今日の受講を終え、教室から出た俺を待ち受けていたのは憂である。
夏休み前に宣言した通り、休暇中も怪奇倶楽部の活動を行っており、補講が終わるタイミングで彼女は俺をわざわざ迎えに来るのだ。おそらく逃がさないためであろう。

彼女は廊下の壁にもたれかかっていたが、俺の姿を見つけるとゆっくり近寄ってきた。

「補講は順調?」

「ひたすらダルいだけだね」

「そうでしょうね」

適当に会話をかわしながら、二人並んで部室を目指して歩いた。夏休みの校舎内はひっそりと静まり返っている。外から響いてくる蝉の声だけがやたらと耳に反響していた。

「…そういえば」

突然、憂が話始める。

「最近、何人かの女の子が行方不明になってるわね?」

俺は憂の顔を見た。相変わらずその表情は冷めたものだった。

彼女が言っているのは、この近所で発生している中学生や高校生の失踪事件のことに違いなかった。

この事件はテレビのニュースやワイドショーでひっきりなしにたれ流され、俺もある程度の概要は知っていた。

事件が発生するのは夕方頃で、しかも姿を消すのは決まって女子だけという異質なものだった。

失踪した彼女達が家出するような動機もなく、警察は誘拐のセンも考えたようだが、変質者などの目撃証言もないことから、今のところ事件解明に向けての進展はないらしい。

「先週は隣街の中学生がいなくなったそうよ」

淡々と述べる憂に、俺は肩をすくめる。

「物騒な世の中だからな、何が起こっても不思議ではないよ」

「そうね、《写り込む女》が現れたくらいだもの。あなたの言う通りだわ」

その話は蒸し返したくないので、俺は無視した。今でもあの女は俺の前に時々現れるからだ。


そうやって廊下を歩いている途中、ふと窓の外を眺めた。今いる場所からちょうど2階の渡り廊下が見える。

普段なら無人の渡り廊下だが、今日はちょっと様子が違っていた。

渡り廊下には2つの人影があった。片方は俺達の学年主任の先生だ。黒ぶちメガネに特徴的なずんぐりした体型は遠目でも見紛うことはない。


そして、もう一方は制服を着た少年だった。


俺のものとはちょっと造りが異なる学生服を身にまとったその少年は、学年主任の隣に並んで歩いていた。時おり先生がどこかに向かって指を差しながら彼に話しかけているところから見て、どうやら校内の案内をしていることがわかる。

もしかして転校生だろうか。俺達の学年主任が同伴しているということは同い年なのかもしれない。

遠くから眺めていたのだがしかし、その彼の顔立ちはムダに整っていることくらいはわかった。間違いなく美少年の部類に入るだろう。
先生に向ける表情も至って穏やかで柔和な印象を与える。けれど、どこか引っかかる。



彼の顔に見覚えはない、はずなのに。


何となく見たことがあるような…。


一体どこで…と考えているうちに、彼と先生は廊下を渡り終えたのか姿が見えなくなった。

「どうかしたの?」

憂が怪訝そうに声をかけてくる。説明するのが面倒だった俺は、何でもない、と適当に誤魔化した。彼女も特に興味はなかったようで追究してくることはなかった。


その後、部室に着いた俺達はいつものようにどうでもいい怪談話をいくつかしたあとさっさと帰宅し、至って平穏に一日を終えた。

ベッドに横になった瞬間にはすでに、学校で見かけた少年のことはすっかり忘れていた。



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