《MUMEI》 . 結局、俺の貴重な夏休みは午前は特別補講を受けて、午後は部室で憂の相手をするだけのつまらない日々を過ごしただけで他に何の想い出もなく、極めてあっさりと幕を閉じた。 そして、始業式を迎え――― みんなが遊びまくっている間に何で俺だけこんな目に…と多少僻みながら教室へ入ると、クラス中が何やら色めき立っていた。 …なんだ? 例の失踪事件のことで騒いでいるのか? 登校したばかりでその空気を把握しきれない俺に、仲の良いクラスメイトが開口一番こう言った。 「俺達のクラスに転校生が入るらしいぞ!」 転校生? すっかり当てが外れた俺は、その予期せぬ言葉を心の中で繰り返し、補講のあと、渡り廊下で見たあの少年の姿をふと思い出す。 「そういや見かけたな」 サラッと答えるとクラスメイトは興味があるのか凄い勢いで食いついてきた。 「マジで!いつ??」 「夏休みだよ」 「夏休み?どこで?」 「学校。補講が終わったあと偶然見かけたんだ」 「あーそっか。お前、赤点補講組だったもんな」 それを蒸し返すなよ、と渋い顔をしたがクラスメイトは気づかなかったようで、それで?と先を促すように言った。 「男?女?どっち?」 「男だよ、学生服着てたし」 正直に答えるとクラスメイトはひどく残念がった。どうやら女子を熱望していたらしい。転校生が男子であればその話題にはもう興味がないようで、クラスメイトはさっさと会話を切り上げて俺から離れようとする。 去り際のクラスメイトの背中に、転校生が美少年だったことを告げると、そんな趣味はないと怒られてしまった。 せっかく教えてやったのに。俺はちょっとすねた。 . 前へ |次へ |
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